チェリーブロッサム

チェリー・ブロッサム

唐突だが、オレは日本人だ。
当然のごとく桜が好きな訳だが、その本当の良さに気付いたのは30に近くなった頃だったような気がする。
ただキレイなだけではない。
何か胸に迫ってくるような、ある種の怖ささえ感じさせる…
「私もそうでしたね」
マスターが笑顔で相槌を打つ。
「それまでは花見をしていても、花の方は見ていなかったですしね」
ちょっと違うような気もするのだが、まあ、いいか。
「もうすぐ桜の季節ですね」
オレが通うバーには、珍しいことに若い女性バーテンダーがいる。
我々の話を聞いていた彼女は、その気持ちを見透かした様に
「一足先に桜でも味わってみますか?」
と問いかけながら、カクテルを作り始めた。
大正時代に横浜で誕生した、日本生まれの美しいショートカクテル。
そう、「チェリー・ブロッサム」である。
「おっ」
桜のように淡いかと思いきや、ブランデーの味と香りがしっかりと生きていて、なかなか硬派な味わいである。
やはり、桜の良さは大人にならないとわからないということなのだろうか。
そんな風に、自分勝手に感心なんかしてみる。
「いらっしゃいませ」
彼女はいつものように、元気に、しかし落ちついた声で新しい客を出迎える。
咲き誇る(?)花を愛でながら、グラスの中の桜に酔う。
これはこれでまた、なかなか贅沢なひと時なのである。