エンジェルフェイス


エンジェルフェイス

かつて「天使のような悪魔の笑顔」というフレーズを持った歌が流行ったことがあった。
「もう20年くらい前の話になるんですよね…」
マスターが遠い目をして言う。それはともかく、確かに人は見かけによらぬものである。「外面が必ずしも内面を表現しているわけではない」ことは、オレも人生をそこそこ生きてきて、身に沁みてわかっている。そして酒もまた同様である。
「程よく甘みがあって飲みやすいけど、すぐに酔いそうだなあ」
 エンジェルフェイスは、ジン、カルヴァドス(りんごを原料とするブランデー)、アプリコットブランデーが同量使われる(異なるレシピもあり)。ジンとカルヴァドスはアルコール度数が40度以上、アプリコットブランデーも25度前後はある。単純計算でも、マティーニに匹敵する度数である。
「まさに『天使のような悪魔の笑顔』か…」
後味もさっぱりしていて、飲み終わり直後は何杯でも行けそうな感覚に襲われる。しかしそれはあまりに危険な行為なのだ。その女性が美しいというだけで、無限に入れ込むかのごとく…
「そう言えば以前『本当の敵は笑顔で近づいてくる』って言った人がいたなあ」
人生というのを進んで行くのは決して優しいことではない。もしかして人間は「生きていくための方法」を見つけるために生き続けているのかもしれない。
「そう考えると、妙に深い味に思えてくるなあ…」
オレはその美しい黄金色を、繁々と眺めるのであった。