カクテル エメラルドクーラー


エメラルドクーラー
特に変わったことではないのだが、こんなオレでも誕生日というものが1年に1度巡って来る。このトシになると、さしてうれしくもないものだが、かと言って祝福されるのも悪いものではない。
「とは言え、絵に描いたような楽しいバースデーなんて、一生のうちに何度もあるものではないと思いますけどね」
マスターはトシのわりに、随分達観してるんだなあ。まあ、誕生日限らず、人生におけるイベントなんて、そんなものかもしれないが。
「確かお誕生日は5月でしたよね?」
「そうだよ」
そんなやり取りの後、マスターは静かにカクテルをつくり始めた。
「よろしければ、どうぞ」
しばらくたって彼が差し出したのは、鮮やかなエメラルドグリーンのカクテルだった。
「エメラルド・クーラーです」
ひと口、口の中で泳がせてみると、なんともいえない爽やかな香りが広がってくる。
「エメラルドは5月の誕生石ですからね。ちょっと遅くなりましたけど、私からお誕生日のお祝いということで」
なるほどね。ジンとペパーミントの爽やかさと、ほのかな甘さ。これからの季節にもピッタリだ。
「もしかしたら、ちょっと物足りないかもしれないですけど」
いえいえ。なかなかしっかりした味で、まるでオレのように爽やかで…(?)。自分の誕生石の名が付いた、美しいカクテル。勝手に、人生のマイルストーンにさせてもらいますか、今年から。