モスコー・ミュール


モスコーミュール

生姜風味のアイドルカクテル

透明なグラスが並ぶバーの棚の中で、ひと際異彩を放つ銅色のマグカップ。どのバーに行っても置いてあるその物体は、ある一つカクテルの為にのみ存在している。
「そういう意味ではオンリーワンの存在ですよね」
そう、モスコー・ミュールである。直訳すると「モスクワのラバ」、カクテルの中の神セブン(ちょっと古いか)に必ず名を連ねる定番中の定番である。
「なんというか… この独特のショウガの風味はやっぱりクセになるなあ」
「うちではジンジャーワインも使ってますからね。またちょっと変わった風味がすると思いますよ」
モスコー・ミュールの起源はいくつかある。
特に有名なのは、「スミノフ・ウオッカ」の売り上げを伸ばしたいヒューブライン社の社員、大量に発注したジンジャービアーの処分に困った飲食店の店主、銅製のマグカップが売れずに困っていた女性、友達同士だった3人が知恵を絞って考えた末に生み出したという説だ。
「まさに『三人寄れば文殊の知恵』ってやつだね」
「出来過ぎた話ですけどね」
さほど実績のない3つのアイテムが融合することによって希代の傑作となる。それもまた、カクテルのマジックの一つなのである。
「『出会い』って大事なんだなあ」
「そうですねー…」
春の香りが漂い始める時期だ。今年の春は、オレにどんな出会いを用意しているのだろうか。