「う~、寒い!」
この時期は、この声と一緒に店に入ってくるお客さんが多い。
しかしココは岩手である。仕方ないのである。
本来ならホットカクテルやウイスキーが飲みたくなるところだが、生まれながらのひねくれ者であるオレは、(そんな気はまったく無いが)その声の主に挑戦するかのように、ニューヨーク生まれのロングアイランド・アイスティーなどを所望してみた。
「冷たくてスッキリするカクテルですよね」
マスターが言う。確かに飲みやすくてスッキリする味だが、このカクテルには、ジン、ウォッカ、ラム、テキーラ、透明系蒸留酒四天王西洋版がすべて入っているのだ。
いわゆる「レディー・キラー」と言われる所以である。
ところがその4つにホワイトキュラソーやコーラなどが加わると、アイスティーのようにほんのり苦く爽やかな風味を醸し出し、まるで違うイメージへと変化してしまう。
もちろん、マスターがなにげなく添えたミントもより一層味を引き立てる。これをカクテルの醍醐味と言わずして何を言うのだ。
言わずもがなだが、カクテルはある種のケミストリー(化学現象)である。
「ケミストリー」には「相性」という意味もあるそうだが、一見相性が悪いと思われるものたちが、そこに何か、仲介する触媒のようなものが絡んだ時、想像を絶する素晴らしい結果を生み出すことも多々ある。
「仕事や人間関係も、かくありたいものですねえ」
「…そうだねえ」