カクテル スプリングオペラ


スプリングオペラ

その日の帰りも、オレはとあるバーに寄った。
ちょっと渋く、物憂げに外の風景を見てみる。
まあ、誰が見ているわけでもないんだけど。
それにしても、もうすぐ春がやってくるんだなあ…
外を見ながらオレはマスターに尋ねた。
「…春のものは無いかなあ?」
「はっ?」
「だって、張る物って」
「『張る』じゃなくて『春』だよ!『春』!」
とは言ったものの、中年の身としては、桜の花のような可愛いピンク色のカクテルはきついんだよなあ。
もしかして失敗したかなあ…
「カタン」
しばらくして、オレの前に一つのグラスが差し出された。
「ほお」
緑のミントチェリーとオレンジ色と透明の液体の層。
可愛すぎず渋すぎず、これだったら中年のオレでも大丈夫だ。
「冷たいうちに、どうぞ」
マスターは涼しい顔をしてオレにすすめる。
ジンだ。
ジンの香りと味が早春の草原を感じさせる。
考えてみれば、「ジン」は香草で香り付けした蒸留酒だ。
なるほどなあ。
でも、学生時代に見たホガースの絵の「ジン横丁」は怖かったけど。
マスターが言うには、何でも生まれてから15年ほどのこの新しいカクテルは、銀座の有名バーのバーテンダーが発明したらしい。
バーのような薄暗い室内にいても、春を感じることは全然できるのだ。


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