カクテル スカイダイビング


スカイダイビング

オレの通っているバーにはいろんな常連客がいる。オーセンティックバーが板に付いているオジサマはもちろん、単身赴任の会社員、20代の中学校教師、酔うと際限なく明るくなるセレブ系マダム、妙に色っぽいアラサーの看護師。夫婦やカップルも多いが、若モノが1人で訪れることも珍しくない。
「どーも、こんばんは」
たまに1人でやって来る、製薬会社の若いサラリーマンだ。
「私、今度転勤することになったんですよ」
「へー、どこへ?」
「実は東京へ」
「それは残念だなあ」
「こちらこそ! 盛岡もこの店も楽しかったんですけど」
そこへマスターが頼んでいたカクテルを差し出した。
「スカイ・ダイビングです」
ちょうどオレが生まれた頃に誕生したカクテルだ。澄んだ青空のような色、甘くてちょっとだけ苦いラムの味。爽やかな風味が、この季節にはピッタリだ。
「へー、キレイな色ですね」
そこからオレは彼と小一時間話をした。考えてみれば、こんなにじっくり彼と話をしたのは初めてだ。
もしかしたら人生なんて、小さなスカイダイビングの繰り返しかもしれない。目標とする地点は決めてある。しかし風の流れや自分の能力で着地点は変わってくる。基本的にやり直しは利かず、その着地点から新たな一歩を踏み出さねばならない。オレは、最後に彼に話しかけた。


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