忘新年会が多いこの時期、居酒屋やキャバクラと同じようにバーも忙しい。さらに今日は週末ということもあって、マスターも他のスタッフたちもあたふたと動き回っている。こちらとしてはちょっと手持ち無沙汰なのだが、まあ仕方ないのである。
「すみません、ちょっとお待ちいただけますか」
「いやいや気にしないで」
こういう時に心強いのは知り合いの常連ということになるのだが、今日に限っては誰もいない。そんなことを考えながら外を見ると、ハラハラと雪が降ってきた。
「雪だ…」
「寒いわけですね」
一息ついたマスターがカクテルをつくり始めた。
「雪国です」
「確かにココは雪国だが…」
「ということではなく」
一服の清涼剤というつもりで放ったジョークだったが、疲れているマスターにとっては違った意味の冷涼感をもたらしたようだ。
グラスのフチの「スノースタイル」は塩ではなくグラニュー糖。ウォッカとライムジュースがスッキリした味わいを、ホワイトキュラソーがほのかな甘みを醸し出していて、何というか懐かしい味わいである。ちなみにグラスの底のミントチェリーは、雪に埋もれながら春を待つ息吹の象徴なのだそうだ。昭和32年、山形の地で生まれた「雪国」は生粋の東北生まれのカクテルなのである。
「なるほど。親近感が沸くなあ」
飲みながらオレは呟いた。この店で出会った皆様、今年もお世話になりました。